よみもの・連載

2023年新春鼎談 天野純希×澤田瞳子×矢野隆

 
構成/宮田文久 撮影/織田桂子

澤田
私もやりたいことはたくさんあって、そのひとつとして海外に興味があります。特に、平安初期を生きた高岳親王は、いつか書いてみたいですね。皇太子だったのに廃位されてしまい、60歳を過ぎてから中国に渡り、さらに天竺(てんじく)を目指す途中で死んでしまう。澁澤龍彥さんが『高丘親王航海記』で書いておられるから、同じ題材に挑む難しさはあるんですが、どんなことができるのか、ワクワクするテーマです。
矢野
私は逆に身近というか、原初的なことのほうに興味が向いています。地に足をつけるというか、それこそ住む場所も、土をいじることができるところに引っ越そうかと思っているところです。他にも、肉をいただくのであれば、それを仕留めるところから始めなきゃいけないんじゃないか、とか……。作家としてというより、人間として、家族と一緒にそういった場所でどう生きるのか。そうした営みが、また作品に滲(にじ)み出てくればいいな、と。冒頭で申し上げた今年のチャレンジも、こうした変化にかかわるところなんです。
澤田
私も最近、教えていただきながら稲作にチャレンジしているんですよ。小説を書いているとどうしても観念的になりがちで、そうした生活が見えなくなってしまう。私も狩猟免許をとろうとしていた時期があったので、矢野さんのお話はよくわかります。いまは稲作を中心に、現代人が切り離されてしまった生活を見つめながら、小説のイメージをどう広げていくか考えています。天野さんも稲作に誘っているんですけど……(笑)。
天野
興味はあるのですが、腰に爆弾を抱えているもので……(笑)。
江口
なるほど(笑)。皆さんそれぞれの挑戦の仕方があるのでしょうね。2023年、直近の刊行予定はありますか。
天野
2月に木曽義仲が主人公の『猛き朝日』(中央公論新社)が出ます。
澤田
わたしはその翌月に徳間書店さんからエッセイ集が出ます。道真のシリーズも全3作の予定ですから、完結作を早く出したいと思います。ここで発言しておいて自分を追い込みます(笑)。
江口
よろしくお願いいたします(笑)。矢野さんはいかがですか。
矢野
春ごろに、「戦百景」シリーズで山崎の合戦を書いた文庫書き下ろしの最新刊が講談社文庫から出る予定です。
澤田
同じく講談社文庫で1月17日、この三人全員が参加した『風雲 戦国アンソロジー』が発売されます。それぞれの戦国の捉え方が滲んでいそうですね。
江口
楽しみです。皆さんに負けず私たち集英社文庫も、挑戦を続けていく一年にしたいと思います。今日は、本当にありがとうございました。
プロフィール

天野純希(あまの・すみき) 1979年愛知県生まれ。愛知大学文学部史学科卒業。2007年『桃山ビート・トライブ』で第20回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。13年『破天の剣』で第19回中山義秀文学賞、19年『雑賀のいくさ娘』で第8回日本歴史時代作家協会賞作品賞を受賞。作品に『青嵐の譜』『南海の翼 長宗我部元親正伝』『信長 暁の魔王』『剣風の結衣』『もののふの国』『信長、天が誅する』『紅蓮浄土 石山合戦記』『乱都』『もろびとの空 三木城合戦記』ほか。

澤田瞳子(さわだ・とうこ) 1977年京都府生まれ。同志社大学大学院博士課程前期修了。専門は奈良仏教史。2011年デビュー作『孤鷹の天』で第17回中山義秀文学賞を受賞。『満つる月の如し 仏師・定朝』で12年に第2回本屋が選ぶ時代小説大賞、13年に同作で第32回新田次郎文学賞を受賞。16年『若冲』で第9回親鸞賞、21年『星落ちて、なお』で第165回直木賞を受賞。作品に『腐れ梅』『火定』『恋ふらむ鳥は』『泣くな道真 大宰府の詩』『吼えろ道真 大宰府の詩』ほか。

矢野隆(やの・たかし) 1976年福岡県生まれ。2008年「蛇衆綺談」で第21回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。09年、同作を『蛇衆』と改題して刊行。21年『戦百景 長篠の戦い』で第4回細谷正充賞、22年『琉球建国記』でオリジナル文庫では初めてとなる第11回日本歴史時代作家協会賞作品賞を受賞。作品に『慶長風雲録』『斗棋』『至誠の残滓』「戦百景」シリーズほか。

江口 洋(えぐち・ひろし) 集英社文庫編集部・部次長