よみもの・連載

2023年新春鼎談 天野純希×澤田瞳子×矢野隆

 
構成/宮田文久 撮影/織田桂子

江口
そうなんです。歴史時代小説において最もスポットライトが当たってきたというか、馴染みの深い戦国、幕末の小説がなく、しかもそのセレクトと皆さんのお話が、深く通じているところがありますよね。歴史時代小説というジャンルのなかだけを見るのではなく、より広く、しかも現在という「鏡」に映しても耐えうる人間の奥にある何かを、深掘りしていかなければいけないということなんでしょうね。そのような肌感覚を、同世代のお三方が、細かな違いはありつつも共有していらっしゃるのが興味深いです。話は変わりますが改めて、皆さんはどういう経緯で交遊関係を結ばれていかれたのですか。
矢野
まず、先ほども話が出ましたが、天野さんと私が小説すばる新人賞の先輩、後輩の関係になるんです。その後も同賞のパーティーで会うたびに「二次会行く? どうする?」「あ、純希君が行くなら俺も行くよ」とふたりで肩寄せ合うような関係ですね(笑)。
天野
そうですね(笑)、もう15年ほどになりますね。
矢野
一方で澤田さんと私が出会ったのは、5年ほど前のことになります。私の地元、福岡の先輩作家だった葉室麟さんが亡くなられた、その御葬儀のときですね。
澤田
はい、そのとき初めてお目にかかりました。
矢野
その後、地元が同じく福岡である東山彰良さんのお誘いで、澤田さんとも何度か酒席をご一緒させていただきました。澤田さんは飲まれないのですが、私が酔っぱらって話をしているのも、親身になって聞いてくださるんです……(笑)。澤田さんと天野さんは、どういうきっかけだったんですか。
澤田
私が2011年、第17回の中山義秀賞をいただいていまして、天野さんが2013年、第19回に受賞されているんです。その間に受賞された西條奈加さんと三人で、よく飲んでいますよね。
プロフィール

天野純希(あまの・すみき) 1979年愛知県生まれ。愛知大学文学部史学科卒業。2007年『桃山ビート・トライブ』で第20回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。13年『破天の剣』で第19回中山義秀文学賞、19年『雑賀のいくさ娘』で第8回日本歴史時代作家協会賞作品賞を受賞。作品に『青嵐の譜』『南海の翼 長宗我部元親正伝』『信長 暁の魔王』『剣風の結衣』『もののふの国』『信長、天が誅する』『紅蓮浄土 石山合戦記』『乱都』『もろびとの空 三木城合戦記』ほか。

澤田瞳子(さわだ・とうこ) 1977年京都府生まれ。同志社大学大学院博士課程前期修了。専門は奈良仏教史。2011年デビュー作『孤鷹の天』で第17回中山義秀文学賞を受賞。『満つる月の如し 仏師・定朝』で12年に第2回本屋が選ぶ時代小説大賞、13年に同作で第32回新田次郎文学賞を受賞。16年『若冲』で第9回親鸞賞、21年『星落ちて、なお』で第165回直木賞を受賞。作品に『腐れ梅』『火定』『恋ふらむ鳥は』『泣くな道真 大宰府の詩』『吼えろ道真 大宰府の詩』ほか。

矢野隆(やの・たかし) 1976年福岡県生まれ。2008年「蛇衆綺談」で第21回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。09年、同作を『蛇衆』と改題して刊行。21年『戦百景 長篠の戦い』で第4回細谷正充賞、22年『琉球建国記』でオリジナル文庫では初めてとなる第11回日本歴史時代作家協会賞作品賞を受賞。作品に『慶長風雲録』『斗棋』『至誠の残滓』「戦百景」シリーズほか。

江口 洋(えぐち・ひろし) 集英社文庫編集部・部次長