2023年新春鼎談 天野純希×澤田瞳子×矢野隆
構成/宮田文久 撮影/織田桂子
- 天野
- 気づけば、もうずいぶん長い飲み会になってきましたね。
- 江口
- そうして皆さんぞれぞれのつながりが生まれるなかで、2022年に矢野さんの『琉球建国記』が第11回日本歴史時代作家協会賞作品賞を受賞され、その受賞祝いの夜に澤田さん、天野さんのおふたりが駆けつけてくださったわけですね。そこでノリと勢いでディズニー行きの話が出て、と(笑)。
- 澤田
- ふたりずつでなら会っていたわけですが、三人でご一緒したのは矢野さんの受賞祝いの夜が初めてでしたから、そう考えると不思議なご縁ですね。
- 江口
- 本当に。そして、ここにいらっしゃらないのがいまだに信じられないのですが、葉室麟さんの存在がとても大きいのだなと感じ入ります。とても素敵な方で、そして、みんなの接点になる方でしたね。
- 澤田
- そうですね、天野さんに一度、お引き合わせしたかったです。
- 天野
- 残念ながら、お会いする機会がなかったですね。
- 澤田
- でも本当に、多くの人たちの接点、ハブになってくださる方でした。
- 矢野
- 葉室さんを知る方は皆さん、人をつなげる方だったと口をそろえておっしゃいますね。
- 江口
- そうしたご縁もあわせて、いまこうしてお三方が集い、そして新世代としての歴史時代小説観を語り合っていらっしゃる、ということなのだと思います。
- 天野
- 新世代の歴史時代小説観ということで思い出したのですが、つい最近読み終わった一冊で、とても面白い作品があったんですよ。千葉ともこさんの『戴天』という小説が、すごいです。
- 澤田
- 気になっている一冊です!
- 江口
- 2020年の松本清張賞でデビューされた方ですね。先ほど矢野さんの『琉球建国記』のときに触れた昨年の第11回日本歴史時代作家協会賞、その同じ回で新人賞をとった小説です。
- 天野
- 唐王朝最大の内乱、安史の乱(安禄山の乱)を描いているんですが、その中心人物である安禄山はほとんど登場せず、宦官(かんがん)やお坊さんといった、語弊を恐れずにいえば、周囲で地べたを這(は)いずり回っているような人たちの話になっています。これも歴史を「人間」の観点からガッツリ書いていて、しかもちゃんとエンタメに落とし込んでいる。本当にすごいと思いました。
- 矢野
- 今度は中国史ですね。
- 天野
- 中国史、きてますよね。
- 澤田
- うん、流れがきています。
- 江口
- 漫画やアニメ化で大ヒットしている『キングダム』などが象徴的ですね。
- 澤田
- ここでハッキリ申し上げたいのですが、漫画の世界では西洋史でも東洋史でもいろんな時代が描けるのに、なかなか小説の世界では書かせてもらえず、読者の方にもアピールできないというのは、本当に悔しいことだなと思っているんです。日本社会に住んでいるからこそ書くことができる物語はきっとあるはずで、そこの部分を我々はやっていきたいし、きっと読者の皆さんも求めているんじゃないか、と。
- 天野
- 全然知らないけれど、面白い時代なんて山ほどあるわけですよね。
- 矢野
- あるある、山ほどあります。
- プロフィール
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天野純希(あまの・すみき) 1979年愛知県生まれ。愛知大学文学部史学科卒業。2007年『桃山ビート・トライブ』で第20回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。13年『破天の剣』で第19回中山義秀文学賞、19年『雑賀のいくさ娘』で第8回日本歴史時代作家協会賞作品賞を受賞。作品に『青嵐の譜』『南海の翼 長宗我部元親正伝』『信長 暁の魔王』『剣風の結衣』『もののふの国』『信長、天が誅する』『紅蓮浄土 石山合戦記』『乱都』『もろびとの空 三木城合戦記』ほか。
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澤田瞳子(さわだ・とうこ) 1977年京都府生まれ。同志社大学大学院博士課程前期修了。専門は奈良仏教史。2011年デビュー作『孤鷹の天』で第17回中山義秀文学賞を受賞。『満つる月の如し 仏師・定朝』で12年に第2回本屋が選ぶ時代小説大賞、13年に同作で第32回新田次郎文学賞を受賞。16年『若冲』で第9回親鸞賞、21年『星落ちて、なお』で第165回直木賞を受賞。作品に『腐れ梅』『火定』『恋ふらむ鳥は』『泣くな道真 大宰府の詩』『吼えろ道真 大宰府の詩』ほか。
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矢野隆(やの・たかし) 1976年福岡県生まれ。2008年「蛇衆綺談」で第21回小説すばる新人賞を受賞し、デビュー。09年、同作を『蛇衆』と改題して刊行。21年『戦百景 長篠の戦い』で第4回細谷正充賞、22年『琉球建国記』でオリジナル文庫では初めてとなる第11回日本歴史時代作家協会賞作品賞を受賞。作品に『慶長風雲録』『斗棋』『至誠の残滓』「戦百景」シリーズほか。
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江口 洋(えぐち・ひろし) 集英社文庫編集部・部次長