よみもの・連載

雌鶏

第二章

楡周平Shuhei Nire

 確かに、言われてみればその通りかもしれない。
 願いを叶えてもらうための対価が金であるのなら、叶えてやる側には入る一方となる。もちろん権力を維持するためにも金が必要だろうが、入ってくる金がそれを上回るのなら、金に執着しなくなるのも当然と言えるだろう。
 つまり、鬼頭は金よりも政界、財界の重鎮たちが、何を望み、何を考えているのか、個々の願望や悩みを把握することが、権力掌握に繋がると考えているのだ。
「私の占いが評判になって、それまで先生にご相談に上がっていた方々が、直接ここを訪ねて来られるようになったら――」
「それはご心配なく。相談は完全予約制、内容は事前に書面で提出するよう決めておけばいいだけの話ですので」
 鴨上は貴美子の疑問をみなまで聞かずに答えてきた。
「事前に書面で? では郵送で?」
「基本的には、そうしようと考えています」
 客がどれほど集まるのかは分からぬが、今後の展開次第では、一人でやっていくには手に余ることになりそうな気がする。
 そんな貴美子の内心が、表情に出てしまったのか鴨上は続けて言う。
「もちろん、貴美子さんお一人では大変でしょう。ですから、秘書と言いますか、炊事、洗濯、雑用もこなせる女性をこちらで、ご用意させていただきます」
「そんな、滅相もない――」
 あまりにも分不相応に過ぎると、続けようとした貴美子を遮って、鴨上は当然のように言う。
「貴美子さんには、神になっていただかなければならないのですから、身の回りの世話をする人間が必要ですよ」
「か・み……ですか?」
「そう、神です。当たり前じゃないですか。あなたには相手の将来を見通す力があるのですよ。そんなの神様以外にいませんのでね」
 唖然(あぜん)とする貴美子に向かって、鴨上は続ける。
「占は宗教に似たところがありますのでね」
「宗教?」
「貴美子さん、人はなぜ神の存在を信じ、神に縋(すが)ると思います?」
 高等女学校はミッション系で、教義の授業はあったが、貴美子自身は信仰しているとまでは言えない。
 答えに窮した貴美子に向かって、鴨上は言う。

プロフィール

楡 周平(にれ・しゅうへい) 1957年岩手県生まれ。米国系企業在職中の96年に書いた『Cの福音』がベストセラーになり、翌年より作家業に専念する。ハードボイルド、ミステリーから時事問題を反映させた経済小説まで幅広く手がける。著書に「朝倉恭介」シリーズ、「有川崇」シリーズ、『砂の王宮』『TEN』『終の盟約』『黄金の刻 小説 服部金太郎』など。

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