よみもの・連載

雌鶏

第二章

楡周平Shuhei Nire

 なるほど、そう説明されると納得がいくが、それでも疑問は残る。
「でも、なぜ今なんです? 羽村先生は、民自党のきっての実力者でいらっしゃいますよね? 新党を結成なさったはいいけれど、主導権を民憲党に握られることもあり得るわけで――」
「だから、先生を訪ねてきたんです」
 鴨上は貴美子を遮って言い、「政界で権力を握るために必要不可欠なものは何だと思います?」
 唐突に訊ねてきた。
 そう問われれば、答えは一つしか思いつかない。
「お金……でしょうか」
「そう、お金です」
 鴨上は茶を一口啜ると話を進める。「議員も所詮は人間です。それも権力欲、名誉欲が並外れて高い俗物の集まりなんです。選挙ともなれば持ち出しの金もかなりの額になりますし、事務所や秘書の人件費、その他諸々(もろもろ)、とにかく金がかかるんです。だから、盆ならば氷代、正月ならば餅代と、折に触れ気前よく金を出してくれる親分につくに越したことはないんですよ」
「では、羽村先生は、その資金を用立てて欲しいと、先生の所にお願いに上がったのですね」
「羽村先生だけじゃありません。民憲党の今川(いまがわ)先生も……」
 鴨上は苦笑すると、また一口、茶を啜り、ここからが本番だとばかりに、貴美子の目を正面から見据えてきた。
「ここを訪ねるように勧めたからには、先生はどちらを新党の党首に据えるか、お決めになっていらっしゃるのですね」
「もちろんです」
 思った通りだが、そうなると問題は、卦の結果を二人にどう伝えるかだ。
 二人とも党首になれるか否か、あるいは政治家としての将来を見立てて欲しくてやって来るのだろうが、鬼頭の勧めでここを訪ねたとなると、端から結論ありの似非(えせ)占い。貴美子の占いの能力が疑われてしまうことになるだろう。
「でも鴨上さん。単に、党首になれるなれないを見立てるだけでは──」
 貴美子が発しかけた疑問は、想定済みだとばかりに、
「もちろん、お二人への答えは、用意してあります」
 鴨上はみなまで聞かずに、驚くべき筋書きを話し始めた。

プロフィール

楡 周平(にれ・しゅうへい) 1957年岩手県生まれ。米国系企業在職中の96年に書いた『Cの福音』がベストセラーになり、翌年より作家業に専念する。ハードボイルド、ミステリーから時事問題を反映させた経済小説まで幅広く手がける。著書に「朝倉恭介」シリーズ、「有川崇」シリーズ、『砂の王宮』『TEN』『終の盟約』『黄金の刻 小説 服部金太郎』など。

Back number