よみもの・連載

あなたの隣にある沖縄

8.沖縄へのラブソング

澤宮 優Yu Sawamiya

「例えば俺が素敵なラブソングを歌ったとしても、聞く人の大部分が沖縄の歌を歌ってくれと言うし、佐渡山豊は沖縄の看板をしょって歩いていると言う人もいる。自分はそうじゃないと思っていてもね。音楽評論家も『新譜ジャーナル』などに、佐渡山から沖縄を取ったら何もないとまで書いたりするわけだ」

 佐渡山は世の中に訴えかける歌の可能性を信じていた。時代がそうでなくなったとき、彼の中に歌うという必然性が無くなったのである。
 彼の古くからのファンにウチナンチュの佐渡山潤(じゅん)がいる。奇しくも同姓である。彼は昭和50年に沖縄から集団就職で、広島にやって来た。潤は佐渡山の魅力をこう語る。
「日本の歌はね、恋愛や好きとか嫌いしか歌わない。佐渡山さんのは世の中がよくなって欲しいという歌で、他と違います。恋愛を超えた沖縄への大きな愛を歌う。そこが魅力なんです」
 潤も佐渡山と同じく日本復帰を名ばかりだったと批判する。
「政府は米軍基地を置き土産にしました。大ウソつきですよ。天皇や政府を守るための基地なら、皇居や富士山に作れと言いたいですね。番犬は自分の庭で飼うもんです」
 佐渡山も思いは同じだ。彼は米軍基地を皮肉った「ねずみ」という歌を作っている。
自分の屋根裏にはいつしかねずみの親子が住んでいる。親子はその家で楽しく暮らしているが、隠れて“何か”を運んでいる。家主も気づいているが、黙っている。科学者がいうには、“何か”は、人が肌に触れると死んでしまう毒物らしい。この際我が家を捨てようと家主は思う。わかっているのは、ねずみの親子は戦争が好きだということだ。親子はアメリカと佐藤栄作である。彼らが運ぶものは毒ガスである。
 佐渡山は「ねずみの親子の行動はわかる人にはわかります。しかし身の安全を考え、今は黙っていたほうがいいかなと思い、私は抽象的な表現にしました。ただし沖縄の現実を描き、吐き出す気持ちで歌を作りました」と語った。
 その後帰郷し、佐渡山は独学で一級建築士の免許を取っていた。もともと建築に興味があったのだという。彼は米軍基地の内部を見てみようと、嘉手納基地の技術設計課で働くことにした。彼は英語検定1級も持ち、会話に不自由もしない。彼は米軍に雇用される立場になったのだ。
「いつも基地のフェンスの外から中を見ていましたからね。自分も基地の中に入ってみたい、基地内がどんな構造なのか見てみたい気持ちもありました。米軍兵が考えているのはどんなことだろう。いい奴もいるだろうし、良心もあるだろうと確かめたい思いがありました」

プロフィール

澤宮 優(さわみや・ゆう) 1964年熊本県生まれ。ノンフィクションライター。
青山学院大学文学部卒業後、早稲田大学第二文学部卒業。2003年に刊行された『巨人軍最強の捕手』で戦前の巨人軍の名捕手、吉原正喜の生涯を描き、第14回ミスノスポーツライター賞優秀賞を受賞。著書に『集団就職』『イップス』『炭鉱町に咲いた原貢野球 三池工業高校・甲子園優勝までの軌跡』『スッポンの河さん 伝説のスカウト河西俊雄』『バッティングピッチャー 背番号三桁のエースたち』『昭和十八年 幻の箱根駅伝 ゴールは靖国、そして戦地へ』『暴れ川と生きる』『二十四の瞳からのメッセージ』などがある。

Back number