よみもの・連載

あなたの隣にある沖縄

8.沖縄へのラブソング

澤宮 優Yu Sawamiya

変わらぬ沖縄への目線
 しかし現実の沖縄に対する本土の視線が向くのは、相も変わらず観光地としてのそれである。佐渡山は語る。
「ドラマの『ちゅらさん』で沖縄ブームが起こって、それは嫌いではないけどね。しかし沖縄が本土のために商品化され消費されてゆく。その中で我々はどうすればいいのかと思うと悲しくなります。そういう状況は誰が作ったのか。そんな問いかけを今もしています」
 令和2年末、沖縄はコザ事件から50年を迎えた。10月には沖縄市一番街で佐渡山の足跡を振り返る「佐渡山豊展」が始まった。写真雑誌や記事、レコードなどが数多く展示され、事件の日である12月19日にはコザ事件をテーマにしたライブが行われ、佐渡山はコザ事件を扱った歌「焼き打ち通りのバラード」を熱唱した。
 普天間(ふてんま)基地は辺野古(へのこ)への移設も決まり、着々と基地建設が進む。近年、対中国を意識して南西諸島に自衛隊のミサイル基地も作られた。果たして武力で紛争は解決するのだろうか。
「大事なことは他国から暴力を受けても、こちらは非暴力で行かなければならないということです。無防備の人へは誰も撃たない。撃ったら悪者になるという良心は人の心にあるはずです。それがベースの考え方にならないとね。そこを踏まえた上で、私は言葉に音符を乗せてというスタンスでやっています。それで何ができるかと問いながらも、歌い続けています」
 自分にできる限界の空(むな)しさも感じながらも、歌い続ける佐渡山だが、今もライブではパンチが効いていて、客はいつしか引き込まれる。歯に衣着せず自分の思いを歌う。それが魅力なのだ。
「僕の姿勢は今更変えようがないですね。不器用ですが、これからも自分を捨てず歌を通して表現したいですね。沖縄の言葉できっちりと沖縄の状況に向き合いたい。そういう時代だと思います。ライブやコンサートには僕の歌に一貫した思いを持つ人たちが来られるので、その思いを頂いてキャッチボールするように歌っていきたいですね」
「ドゥチュイムニィ」は沖縄に米軍基地がある限り、強い生命力を持って歌い続けられるだろう。それはいつまでかはわからない。ただ未来も沖縄の現状が変わらなければ、彼の思いを継いだ若い歌い手によって歌詞が継ぎ足されてゆくかもしれない。そんな曲なのである。
 ライブに行けば佐渡山のほとばしる歌声は今も尚(なお)観客のハートを鷲掴(わしづか)みする。それは今も昔も変わらない。彼はこれからも沖縄への大きな愛を歌い続けてゆく。

プロフィール

澤宮 優(さわみや・ゆう) 1964年熊本県生まれ。ノンフィクションライター。
青山学院大学文学部卒業後、早稲田大学第二文学部卒業。2003年に刊行された『巨人軍最強の捕手』で戦前の巨人軍の名捕手、吉原正喜の生涯を描き、第14回ミスノスポーツライター賞優秀賞を受賞。著書に『集団就職』『イップス』『炭鉱町に咲いた原貢野球 三池工業高校・甲子園優勝までの軌跡』『スッポンの河さん 伝説のスカウト河西俊雄』『バッティングピッチャー 背番号三桁のエースたち』『昭和十八年 幻の箱根駅伝 ゴールは靖国、そして戦地へ』『暴れ川と生きる』『二十四の瞳からのメッセージ』などがある。

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