よみもの・連載

初恋父(と)っちゃ

第二回

川上健一Kenichi Kawakami

「そんなの簡単じゃない」
 小澤があっけらかんという。
「何が?」
「解決方法だよ。その夏沢みどりとかいうオバサンに会ったら気がすむんでしょう? だったら会いにいけばいいじゃない」
 小澤が軽くいい放つと、山田が感心して小澤の肩を叩く。
「小澤よ、イガ、ただのバガコの投げオンジだど思ってらったども、やる時ぁやるもんだなあ。さすがはへっぺし騎士団のむっつりすけべ三銃士だ。小澤のいう通りだど水沼。オバサンになった夏沢みどりさ会いにいって、へっぺすれば初恋病は治る」
「お前らなあ、勝手にそんなこというけどな、そうは簡単にいかないんだよ。夏沢みどりがどこにいるか、誰も知らないんだから。十和田で中学のクラスの同級会があった時、みんなに夏沢みどりはどこにいるかって聞いたけど、誰も知らないというんだ。中学の時に彼女と一番仲がよくて、高校も一緒だった女子も知らないというんだよ。ケーキ屋の宮下美和子だ。知ってるだろう山田」
「知ってるも何も、同じ町内だ。ハナ垂らしのビタコ(女児)の頃から知ってる」
「宮下美和子がいうには、北海道に転校してから二、三度手紙のやりとりがあって、それっきりになったというんだ。それになお前ら、夏沢みどりはオバサンじゃないんだよ。俺の中での夏沢みどりは永遠にバス停で挨拶を交わした高校生のままなんだからな。オバサンなんていったら張っ倒しちゃうからな」
 と水沼はいささか憤然とする。
「はい、焼酎のお湯割りです。水沼さん、今日は元気じゃないですか」
 エリちゃんがお湯割のグラスをカウンターに置くと、すかさず、
「エリちゃん、俺の背中におっぱい触ったぞ。若い女のおっぱいは石みたいに硬くてやっぱりいいなあ」
 と山田が鼻の下を伸ばす。
「何いってんのよ、山田さん。触ったのはおっぱいじゃなくて肩です! 石みたいな肩で悪かったわね!」
 とエリちゃんがふくれた。

プロフィール

川上健一(かわかみ・けんいち) 1949年青森県生まれ。十和田工業高校卒。77年「跳べ、ジョー! B・Bの魂が見てるぞ」で小説現代新人賞を受賞してデビュー。2002年『翼はいつまでも』で第17回坪田譲治文学賞受賞。『ららのいた夏』『雨鱒の川』『渾身』など。青春小説、スポーツ小説を数多く手がける。

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