よみもの・連載

軍都と色街

第三章 舞鶴

八木澤高明Takaaki Yagisawa

中舞鶴の遊郭跡を歩く


 舞鶴には、旧日本海軍時代に竜宮遊廓以外にも二ヶ所の遊廓が作られていた。中舞鶴には加津良(かつら)遊廓、西舞鶴には朝代(あさしろ)遊廓があった。
 私は次に加津良遊廓のあった場所に向かってみることにした。
 東舞鶴から加津良遊廓跡へ向かうと、右手には旧海軍時代の赤レンガ倉庫が建ち並んでいる。今では観光施設となっていて内部の見学もできる。
 私と田島さんは、赤レンガ倉庫を見学していくことにした。
 赤レンガ倉庫は、東舞鶴に十二棟残っているという。建造されたのは鎮守府が開かれた明治時代から大正時代にかけてである。
 赤レンガ倉庫にはレンガに関する博物館が併設されていた。そもそもレンガは紀元前のメソポタミアで生まれたという。今から十五年ほど前にイラクに行った際、郊外の民家を訪ねたのだが、その土地の民家はレンガでできていて、庭では日干しレンガを作っていたことを思い出した。
 現在のイラクやシリアの一部にあたるメソポタミアは、人類最古の売春の記録が残っている土地である。神殿に娼婦たちがいて、献納する男性たちに見返りとして、体を捧げたという。
 売春が宗教活動の一環として行われていたわけだが、その売春が行われていた神殿も日干しレンガで作られていたことだろう。レンガの発明で大規模な建造物が建てられるようになり、そうした建造物が神聖視されたことから、それに付随して売春も生まれた。レンガというものは、日本では一般的な建築資材ではないが、人間の築いてきた文明とは切っても切れない関係がある。
 
 赤レンガ倉庫を出て、加津良遊廓に向かって車を走らせると、目に入ってくるのは、イージス艦など自衛隊の艦船である。車道に沿って艦船が停泊していて、遮るものはフェンスのみということもあり、その巨大さに目を奪われる。

プロフィール

八木澤高明(やぎさわ・たかあき) 1972年神奈川県生まれ。ノンフィクション作家。写真週刊誌カメラマンを経てフリーランス。2012年『マオキッズ 毛沢東のこどもたちを巡る旅』で小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。著書に『日本殺人巡礼』『娼婦たちから見た戦場 イラク、ネパール、タイ、中国、韓国』『色街遺産を歩く旅』『ストリップの帝王』『江戸・色街入門』『甲子園に挑んだ監督たち』など多数。

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