よみもの・連載

軍都と色街

第八章 津田沼 中国 ビルマ

八木澤高明Takaaki Yagisawa

 今から十年ほど前に、ミートキーナを訪ねたことを前回に触れた。軍歴証明書の存在によって、その場所で祖父の戦友たちが戦っていたことを知った。もしかしたら、ちょっとした人生の歯車の具合で祖父もそこにいたかもしれないと思うと、何度も繰り返しになるが、知らず知らずにあの場所に導かれていたように思えてならないのだった。ミートキーナの街の外れには、日本軍が立て籠った塹壕や野戦病院の跡が残されていた。改めて、鉄道第五連隊の兵士たちも書いている『鉄道兵回想記』を読み返していると、ミートキーナで戦った兵士の手記も収録されていて、奇しくもその場所は私が訪ねた場所とほぼ同じであった。
 しかも、その時私は、ミートキーナからマンダレー行きの列車に乗った。それは鉄道第五連隊が整備し、戦時の輸送に使った路線だった。日本軍は一九四二年五月にビルマの全域をほぼ手中におさめると、その頃から鉄道第五連隊はミートキーナに鉄道を走らせている。もしかしたら、祖父もその頃はミートキーナにいたかもしれない。
 十年前に私が乗ったミャンマーの列車は、ミートキーナを出発すると、森の中を走った。強く印象に残っているのは、今までの列車の旅では経験したことのない壮絶な揺れのことだった。十時間以上の列車の旅だったこともあり、私は寝台車に席を取った。ベッドに寝転がっていると、ガタンという音とともに体が浮いた。横揺れもひどく、のんびりと旅情を楽しむ余裕などなかった。
 戦争中の鉄道での移動は、敵からの攻撃もあり、心が休まることなどなかっただろう。そして、車内の揺れも、当時は整備が満足にされなかっただろうから、現在と似たようなものだったのではないか。そう考えるとあの揺れすらも、祖父の導きかと思えてくるのだった。

プロフィール

八木澤高明(やぎさわ・たかあき) 1972年神奈川県生まれ。ノンフィクション作家。写真週刊誌カメラマンを経てフリーランス。2012年『マオキッズ 毛沢東のこどもたちを巡る旅』で小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。著書に『日本殺人巡礼』『娼婦たちから見た戦場 イラク、ネパール、タイ、中国、韓国』『色街遺産を歩く旅』『ストリップの帝王』『江戸・色街入門』『甲子園に挑んだ監督たち』など多数。

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