よみもの・連載

軍都と色街

第八章 津田沼 中国 ビルマ

八木澤高明Takaaki Yagisawa

 彼女とストリップの出会いは偶然が生んだものだった。大学中退後、様々なアルバイトをしながら生活していた彼女は、高田馬場の路上でベニヤ板の上に彼女自身が作ったアクセサリーを売っていた。たまたま彼女のベニヤ板を覗きこんだのが、ストリッパーの女性だったのだ。その踊り子との会話でストリップに興味を持った彼女は、直接劇場に足を運んでその踊り子のステージを見たという。
「ツンブラの衣装を着て軽快に踊る姿を見て、気持ち良さそうに見えたんです。今まで路上で詩を売ったりして、自分を表現したいという気持ちはあったんですが、どう表現したらいいかわからなかったんです。彼女のステージを見て脳に衝撃を受けて、これだって思ったんです」
 路上でのふとした出会いがステージに立つきっかけとなったわけだが、ストリップに出会うまでの彼女は自分の性格に悩み続けていた。
「作り笑いばかりして何の中身もない人間だったんです。大学に通っても、何の意見も言えなくて自分の空っぽさに嫌気が差して、大学も辞めてしまったんです。それでも何とか社会とかかわらなくちゃと思って、路上で物を売っていたんです」
 路上からステージへ新たな表現の場を見つけた彼女だが、順風万帆ではなかった。デビューして三年目のこと、ストリップというやりがいのある場所を見つけても、まわりに流されてしまう自分の性格に嫌気が差し、大量の睡眠薬を飲んで自殺を図った。
「すぐに眠ってしまうのかと思ったら、意外にも眠くならないので、楽屋に戻ったんです。そうしたら出番が来たので、ステージに立ったんですが、踊っているうちにフラフラとしてきて、倒れてしまったんです。まわりの人は疲労で倒れたと思って睡眠薬とは気がつかなかったのね。一日半ほど意識がなかったんですけど、大事には至らなかったの。それからですね、自分の中で何かが吹っ切れて、もうこういう自分と付き合っていくしかないんだと思って強くなったんです」
 今となっては、劇場もなくなり、彼女は定期的にステージに立つこともなくなったという。
 とあるストリッパーのことを思い出しながら、こんなことを思った。祖父も私と同じように、遊廓があったこの場所で、心惹かれる女性と出会ったのだろうかと。

プロフィール

八木澤高明(やぎさわ・たかあき) 1972年神奈川県生まれ。ノンフィクション作家。写真週刊誌カメラマンを経てフリーランス。2012年『マオキッズ 毛沢東のこどもたちを巡る旅』で小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。著書に『日本殺人巡礼』『娼婦たちから見た戦場 イラク、ネパール、タイ、中国、韓国』『色街遺産を歩く旅』『ストリップの帝王』『江戸・色街入門』『甲子園に挑んだ監督たち』など多数。

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