よみもの・連載

軍都と色街

第八章 津田沼 中国 ビルマ

八木澤高明Takaaki Yagisawa

 ちなみにそのストリップ劇場は趣のある木造建築で、元々は大衆演劇場だったという。ただ、劇場のまわりは、住宅街になっていたこともあり、何でこんな不便な場所に劇場があるのかなと、疑問に感じていた。後にそこが色街だったと知り、合点がいったのだった。
 残念ながらストリップ劇場は二〇一三(平成二十五)年に廃業してしまい、壊されて更地になってしまった。
 若松劇場に初めて足を運んだのは、確か二〇〇七(平成十九)年のことで、祖父はその七年前に他界していた。もっと早く色街の取材をはじめていたら、貴重な証言を得られたに違いない。改めて、やはり船橋にも自分の意思だけではないものに導かれてきたように思えてならない。

 若松劇場では、今も心に残っているひとりの踊り子に出会った。彼女は踊り子稼業だけではなく、小説も書くなど、多才な女性だった。
 彼女に初めて会ったのは、劇場ではなく、池袋にある落ち着いた雰囲気の喫茶店だった。楽屋に入るまでのわずかな時間を惜しんで一心に原稿を書いていた。
 その時彼女は、恋愛をテーマにした作品を書いていて、カメラを向けている私に男性心理について尋ねてきた。
「好きな人がいるんだけど、その人との恋は叶いそうもない。そんな時に意識もしていないし、好きでもない人から好意を寄せられたら、男性はどんな感情を持つんですか?」
 全く女性にもてたことのない私には難しい質問だが、柔らかな微笑みを浮かべる彼女にそんな質問をされて、私はしどろもどろになりながら答えに窮したことを昨日のことのように覚えている。
 日々表現の世界で生きる彼女の暮らしの中心にあるのはもちろんストリップだった。
「ストリップはどうしたらいいでしょうね?」
 十年以上舞台に立ち続けた経験を持ちながら、私のような門外漢にも寂れていくストリップ業界に歯止めをかけるにはどうしたらいいのか、意見を求めて来る謙虚さを彼女は持ち合わせていた。
 ステージを見ると、そこには彼女の性格が滲み出ていた。落ち着いた動きから繰り出されるひとつひとつの動作が柔らかく丁寧で、動きに無駄がないので、観客はついつい時の経つのも忘れて、ステージ上の彼女に引き込まれてしまうのだった。まさに上質なステージだった。敢えて一つ注文をつけさせてもらえば、彼女の性格から来る品の良さが仇となってしまっていてステージが上品にまとまり過ぎていることだろうか。

プロフィール

八木澤高明(やぎさわ・たかあき) 1972年神奈川県生まれ。ノンフィクション作家。写真週刊誌カメラマンを経てフリーランス。2012年『マオキッズ 毛沢東のこどもたちを巡る旅』で小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。著書に『日本殺人巡礼』『娼婦たちから見た戦場 イラク、ネパール、タイ、中国、韓国』『色街遺産を歩く旅』『ストリップの帝王』『江戸・色街入門』『甲子園に挑んだ監督たち』など多数。

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