よみもの・連載

軍都と色街

第十一章 富士山周辺の色街

八木澤高明Takaaki Yagisawa

 彼女の取材を終えると、すでに陽が暮れかかっていた。私はキャンプスタンレーのゲートの方向へと歩いた。うねった路地の中を歩いていたら、小麦色の肌をした女性たちの集団と出会った。クラブで働くフィリピン人女性たちだった。一九九〇年代に入って、洋公主を管理していた韓国政府に批判の矛先が向けられたことや、韓国経済が上向くことによって、売春をする韓国人女性が減ると、米兵たちの相手をしたのは、フィリピンやロシアの女性たちだった。日本から数十年遅れて、じゃぱゆきさんならぬ、韓ゆきさんが現れたのである。
 ロシア人の女性に関しては、二〇〇三(平成十五)年に売春を強要された事件が発覚して以降いなくなり、韓国で働いている外国人女性は、フィリピン人が主である。かつてのようにあけっぴろげな売春は影をひそめ、行われているとしても、個人的な繋がりで存続しているという。
 いずれにしろ、防人(さきもり)である米兵を癒す女の役割は外国人女性に受け継がれていた。
 米軍基地は、アジア各地で米兵と現地の女性との出会いの場となった。そこで米兵と出会い、幸せになった女性もいただろう。一方で、今も基地村の片隅に暮らさざるを得ない女性を生んだことも事実である。日本でも、韓国人の女性たちと同じように、ベトナム戦争前後に多くの女性たちが米兵相手に売春をしていたが、何十人もがいまだに基地周辺から出られずに生活しているという話は聞いたこともなく、彼女たちを支援する団体もないだろう。仕事から離れた日本と韓国の娼婦たちの境遇には、違いがある。娼婦だったという重い十字架をいつまでも背負わなければならないのが韓国のように思える。

黒人兵士たちの境遇
 紀子は三年ほど、ベースに通い、三人の黒人と付き合ったという。
「最後に付き合った人とは、結婚も考えましたね。アメリカに行って相手の両親にも会うつもりでした」
 ところが、ボーイフレンドの嘘が発覚して、別れてしまったという。
「大晦日に会って、一緒に新年を祝おうという予定だったんですけど、彼がその日、来なかったんです。当時は携帯もないですから、連絡も取れなかった。彼からは、後日会った時に、急に仕事になって来られなかったと言われたんですが、ブラパンの友達が横須賀のクラブに大晦日、彼がいたよと教えてくれたんです。誠実な人だと信頼していたんですが、その嘘がどうしても許せなくて、別れたんです」

プロフィール

八木澤高明(やぎさわ・たかあき) 1972年神奈川県生まれ。ノンフィクション作家。写真週刊誌カメラマンを経てフリーランス。2012年『マオキッズ 毛沢東のこどもたちを巡る旅』で小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。著書に『日本殺人巡礼』『娼婦たちから見た戦場 イラク、ネパール、タイ、中国、韓国』『色街遺産を歩く旅』『ストリップの帝王』『江戸・色街入門』『甲子園に挑んだ監督たち』など多数。

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