よみもの・連載

軍都と色街

第九章 呉 岩国

八木澤高明Takaaki Yagisawa

 気になったのは、現在はベーカリーになっているが、遊廓のあった通りで営業していることもあり、かつては遊廓かそれに関わる仕事をしていたのではないかということだった。その点についても尋ねてみた。
「うちは、昔は酒屋だったそうですよ。その頃は何軒も酒屋があったみたいで、遊廓相手に商売をしていたそうです。こんな小さな町に多くの酒屋さんがあったことからもここが賑やかだったことがわかりますよね」
「そもそも、吉浦に遊廓ができた理由は聞いてますか?」
「今じゃ面影がないですが、昔はここに四国からの定期連絡船も着いて、呉の玄関口だったんです。呉は軍港だったので、民間の定期連絡船は入れなかったんです」
 その話を聞いて、この場所に遊廓ができたことに納得がいった。
 帰り際、遊廓跡の裏にある港に足を運んでみた。
 今では波穏やかな入り江にある小さな漁港といった風情で、色香や喧騒とはまったく無縁の世界だった。

プロフィール

八木澤高明(やぎさわ・たかあき) 1972年神奈川県生まれ。ノンフィクション作家。写真週刊誌カメラマンを経てフリーランス。2012年『マオキッズ 毛沢東のこどもたちを巡る旅』で小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。著書に『日本殺人巡礼』『娼婦たちから見た戦場 イラク、ネパール、タイ、中国、韓国』『色街遺産を歩く旅』『ストリップの帝王』『江戸・色街入門』『甲子園に挑んだ監督たち』など多数。

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