よみもの・連載

軍都と色街

第九章 呉 岩国

八木澤高明Takaaki Yagisawa

「売防法まではあったそうですけど、お客さんはどこから来た人が多かったんですか?」
「船がようけきたんで、船乗りさんたちがお客さんだったそうですよ」
「昭和になってからもですか?」
「どうでしょうか? 江戸時代の話は聞いてますけど、昭和の頃のことはわかりません。当時は橋が架かってないし、船がお米とか食料品を運んできたんです。この島だけじゃなくて、他の島にも運んでいたから、船は多かったんですよ。橋ができてから、船は来なくなってしまったんです」
 女性は、遊女たちと島に関することも話してくれた。
「あとね、昔はそういう仕事をしている女性は、子どもの時に売られてきて、故郷に帰ることができないで島で亡くなった方も多かったんでしょうね。以前みかん畑に上る斜面の工事をした時に、たくさん骨が出てきたんですよ。子どもの骨もあったと聞いてますよ。回収するときに白い手袋をして、お祓(はら)いをして、お墓を作ったんです。それが整備されて、残ってますよ。島だから土地がないでしょう。昔はいたるところに埋められたんじゃないですか。売られてきた人たちだから、わざわざお墓を作ることもできないでしょう。かわいそうよね。ここに住んでいる人でも、霊感の強い人なんかは、港の神社の近くを通ると足を引っ張られたりするそうですよ。私は何も感じないけどね」
 落ち着いた風情に包まれた御手洗だが、彼女の話を聞く限り、かつては色街の雰囲気が濃厚に漂っていたようだ。
 女性に礼を言うと、私は港に向かった。

プロフィール

八木澤高明(やぎさわ・たかあき) 1972年神奈川県生まれ。ノンフィクション作家。写真週刊誌カメラマンを経てフリーランス。2012年『マオキッズ 毛沢東のこどもたちを巡る旅』で小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。著書に『日本殺人巡礼』『娼婦たちから見た戦場 イラク、ネパール、タイ、中国、韓国』『色街遺産を歩く旅』『ストリップの帝王』『江戸・色街入門』『甲子園に挑んだ監督たち』など多数。

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