よみもの・連載

軍都と色街

第九章 呉 岩国

八木澤高明Takaaki Yagisawa

呉に現れた米兵とパンパン
 戦前や戦中は、日本海軍の軍人や海軍工廠の職工向けに二つの遊廓が存在し、そこを中心に賑わった呉だったが、日本の敗戦とともに色街の客は変わった。新しく客となったのは、アメリカをはじめとする進駐軍の兵士たちだった。
 戦後の混乱期、社会の秩序は乱れ、進駐軍を相手にするパンパンが街中に現れだした。
 JR呉駅から港へ向かって歩いていくと、戦艦大和に関する貴重な資料や写真が展示されている大和ミュージアムの隣に、愛媛県の松山などへのフェリーが発着する中央桟橋がある。桟橋からは、戦艦大和を建造したドックや点検整備のため呉港に寄港している自衛隊の艦船を目にすることができた。
 この中央桟橋こそが、パンパンたちが進駐軍を取り合う場所だったという。
 桟橋は、終戦から朝鮮戦争にかけて、呉に駐留する米軍や英連邦占領軍の兵士たちの上陸地点となった。パンパンたちは、上陸した兵士たちをこの桟橋付近で待ち構えたのだった。
 桟橋周辺には、パンパンたちが兵士たちを連れ込む掘っ建て小屋が建ち並んでいたという。現在の桟橋周辺には、ショッピングモールなどが建っていて、どこにも小屋の痕跡などは残っておらず、色事の匂いなどどこからも漂ってはこない。
 かつての空気を知るために、当時のことを記した書物にあたることにした。まず私が手に取ったのは、呉の中学生が書いた作文も収録されている『基地の子』(光文社)だった。
 呉の中学生が書いた作文は、三作品が収録されていたが、どの作文にも進駐軍やパンパン、混血児という言葉が出てくる。
 パンパンと進駐軍の兵士たちが連れ立って歩く姿は、子どもたちにも衝撃を与えた。呉市立宮原中学三年生の男子が書いた作文によれば、町の様子をこのように記している。ちなみに宮原中学は、戦艦大和が建造されたドックから目と鼻の先にある。

プロフィール

八木澤高明(やぎさわ・たかあき) 1972年神奈川県生まれ。ノンフィクション作家。写真週刊誌カメラマンを経てフリーランス。2012年『マオキッズ 毛沢東のこどもたちを巡る旅』で小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。著書に『日本殺人巡礼』『娼婦たちから見た戦場 イラク、ネパール、タイ、中国、韓国』『色街遺産を歩く旅』『ストリップの帝王』『江戸・色街入門』『甲子園に挑んだ監督たち』など多数。

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