「ただいま、より正確な兵数を割り出すため、番兵の数を確かめておりまする。籠城の不寝番となれば、四刻(八時間)ごとの三交代を基本としますので、各所の番兵の数を摑めば、おのずと総勢の数が見えてまいりまする。されど、問題はまた別のところにあるかと」 「やはり、この天気であるか」 「はい。海ノ口城の主郭は尾根の頂部にあり、とにかく雨が止まぬ限り、足軽たちが近くまで寄せることもできませぬ。われらにとっては、この寒さも大敵にござりまする」 「さすがにそなたでも、天気の先行きだけは読めぬか」 「いいえ……」 雄弁だった信秋が急に表情を曇らせる。 「どうした、信秋。何か気になることがあるのか?」 信方が怪訝(けげん)そうな面持ちで訊く。 「……いえ、確信なきことは口に出来ませぬゆえ」 「伊賀守、そなたの話が精緻(せいち)な調べに基づいていることはよくわかった。それを信頼した上で、もう少し話が聞きたい。気になることがあるならば、遠慮なく申してくれぬか」 晴信は話の続きを促す。 「若君様……」 信秋は少し思案してから口を開く。 「……山に棲(す)む者たちは変わりやすい山の天気に敏感であり、経験に基づいてある程度の先読みもできまする。その者らが申すには、この雨はかなり厄介であり、止む気配がなく、日を追うごとに寒さが増していくことは間違いないだろうとのこと。つまり……」 「つまり、それはこの雨が雪に変わる恐れもあるということであろうか?」 晴信は物見頭が言い淀(よど)んだことを代弁する。 「……ご明察の通りにござりまする。雪となれば、兵の士気だけではなく、足許の動きも奪われ、尾根の頂部まで寄せるのは難しいと考えまする」 信秋は苦い表情で言った。 天候だけを見れば、この戦の先行きは決して楽観できるものではないという読みだった。 「信秋、そなたも雪になると思うておるのか?」 信方は念を押す。 「このところ毎朝、霜が降りており、冷えも厳しくなってきました。それを鑑みれば、いつ雪に変わってもおかしくはないと思うておりまするが」 「……出張った時機が遅すぎたということか」 眉をひそめ、信方が頭を振る。 「されど、それでもまったく策がないわけではありませぬ。城内に忍び込む手立ては確保してありますゆえ、機を見て城門を開くこともできまする。ただし、その時に寄手が城を囲んでおらねば、忍び込んだ者たちの命が危うくなりますので、何があっても城攻めを完遂するという強い決意がなければ、さすがに侵入の策を実行することはできませぬ」 跡部信秋は最後に思い切った策を口にした。