六 (承前) 殿軍(しんがり)に残った諸角(もろずみ)虎定(とらさだ)、原(はら)虎胤(とらたね)をはじめとし、足軽頭(がしら)の横田(よこた)高松(たかとし)、多田(ただ)満頼(みつより)、小畠(おばた)虎盛(とらもり)らの将が集められる。その末席には晴信(はるのぶ)の近習(きんじゅう)となった齢(よわい)二十の教来石(きょうらいし)信房(のぶふさ)もいた。 最初に跡部(あとべ)信秋(のぶあき)から海ノ口(うんのくち)城について諜知(ちょうち)の詳細が報告され、続いて信方(のぶかた)が城攻めの策を説明する。 「……伊賀守(いがのかみ)の話にもあった通り、敵兵の数は予想していたよりも遥かに少なく、われらの退陣を知ってか、城内は緩みきっている。しかも、われらの手の者が忍び込み、城門を開くことができるのだ。この千載一遇の機会を逃す手はあるまい。殿軍だけで城攻めを行うというのは奇策中の奇策だが、ここはひとつ、われら武田武者の意地を見せ、若の御初陣に勝利の誉れを添えたい。この攻城隊を、若が直々に率いられる。それがしはお止めしたのだが、『家臣だけに難儀を強いるような大将にはなりたくない』という信念の下に、若がお決めなされた」 「おおっ……」 居並ぶ将たちに低いどよめきが広がる。 「されど、城への登攀(とうはん)が岨道(そわみち)であることに加え、この天気ゆえ、攻城隊の編成はおのずと限られた兵数となる。おそらく、その数は五百前後。敵兵とほぼ同数か、もしくは少ないかもしれぬ。決して楽観できる戦いではないゆえ、この城攻めはあえて志願を募りたい。そのことに対し、そなたらの忌憚(きたん)なき意見を聞きたい」 信方の言葉に、将たちは厳しい面持ちで黙り込む。 評定の場に漂う沈黙を破るように、嗄(しわが)れた笑い声が響く。 「ふぉほっほっほぉ、殿軍だけで城攻めとは、聞きしに勝る奇策」 諸角虎定が笑みをたたえて言葉を続ける。 「幾多の戦場に赴きましたが、さような戦いは生まれて初めてにござりまする。御初陣の若君様がそれに挑まれるとは、なんとまあ勇壮なことよ。これぞ甲斐源氏の土性骨(どしょうぼね)。是非、それがしに露払いをお命じくださりませ。この老いぼれめの魂魄(こんぱく)が、またまた痺(しび)れ申した」 「同感にござりまする」 原虎胤は、眉ひとつ動かさずに頷く。 「相手の顔色を窺(うかが)うような戦(いくさ)が続き、少々、鬱憤が溜まっていたところ。思う存分暴れても構わぬという御下命をいただけましたならば、すぐに平賀(ひらが)の首級(しるし)を奪ってご覧にいれまする」 諸角虎定と原虎胤の賛同を見て、足軽頭たちも口を開き始める。