連載
新 戦国太平記 信玄
第二章 敢為果断(かんいかだん)11 海道龍一朗 Ryuichiro Kaitou

   十二 (承前)

「駿河守(するがのかみ)殿、面目次第もない……」
「飯富(おぶ)、頭を下げるのはまだ早い。まだ負けたわけではなかろう。ここからは急戦を構えるぞ。それに必要な将兵の頭数は揃えてきたゆえ、その前にしっかりと腹拵(はらごしら)えをさせねばならぬ」
「されど、兵糧が……」
「それについても策を練っておいた。昌俊(まさとし)が何とかしてくれるであろうから、われらは信じて待つだけだ」
「陣馬(じんば)奉行の原(はら)加賀守(かがのかみ)殿が?」
「必ず諏訪(すわ)から兵糧を分捕ってきてくれる」
「諏訪?」
 飯富虎昌(とらまさ)は半信半疑の面持ちで頷(うなず)く。
「……はぁ、わかりました」
 そこへ晴信(はるのぶ)の初陣で見事な諜知(ちょうち)を行った跡部(あとべ)信秋(のぶあき)がやって来る。
「駿河殿、お願いしてありました件は、いかがにござりましょう?」
「おお、あの件か。それについては今から昌俊に申し送りするゆえ、一緒に諏訪へ赴いてくれ」
「承知いたしました」
 跡部信秋の背後に、原昌俊が現れる。
「信方(のぶかた)、では諏訪へ行ってくる。そなたらはここで朗報を待っていてくれ」
「昌俊、無理な願いのついでに、もうひとつ頼みがある。この伊賀守(いがのかみ)を供に連れて行ってくれぬか。どうしても諏訪で調べたいことがあるらしい」
 信方の申し入れに、原昌俊が鋭く反応する。
「ほう。跡部、何が狙いだ?」
「諏訪家に関しまして、妙な風聞など耳にしておりまして、それを確かめに行きたいと」
「いかような風聞か」
「諏訪家の顔が甲斐だけでなく、別の方を向いているとか、いないとか……」
「北信濃(きたしなの)か?」
「まあ、そのような話も」
 跡部信秋の目的を、原昌俊もすぐに察知した。
 諏訪家が武田に内緒で村上(むらかみ)義清(よしきよ)と誼(よしみ)を通じているという噂があり、それを直(じか)に確かめたいという狙いのようだ。
「さようか。ならば、一緒に来るがよい」
「有り難き仕合わせ。では、お供させていただきまする」



 
〈プロフィール〉
海道龍一朗(かいとう・りゅういちろう)
1959年生まれ。2003年に剣聖、上泉伊勢守信綱の半生を描いた『真剣』で鮮烈なデビューを飾り、第10回中山義秀文学賞の候補となり書評家や歴史小説ファンから絶賛を浴びる。10年には『天佑、我にあり』が第1回山田風太朗賞、第13回大藪春彦賞の候補作となる。他の作品に『乱世疾走』『百年の亡国』『北條龍虎伝』『悪忍 加藤段蔵無頼伝』『早雲立志伝』『修羅 加藤段蔵無頼伝』『華、散りゆけど 真田幸村 連戦記』『我、六道を懼れず 真田昌幸 連戦記』『室町耽美抄 花鏡』がある。
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