連載
「新 戦国太平記 信玄」
第二章 敢為果断(かんいかだん)11 海道龍一朗 Ryuichiro Kaitou

「加えて、まことに残念だが、昌勝を隠居させてやらねばならなくなった。家宰の役目については、こたびの戦働きなどを勘案して決めるゆえ、後釜に座りたい者は心してかかるがよい。それまでは虎重を通して通達を出し、戦のやり繰りに関しては昌俊に任せる。新たな所領が眼の前にぶら下がっておる。気合を入れて参れ!」
「おうっ」
「大儀であった」
 信虎は満悦で評定の場を後にした。
「若、長きにわたる無沙汰をしてしまいました」
 信方が晴信に頭を下げる。
「……もう会えぬかと思うたぞ」
「何を申されまするか」
「戻ってくれてよかった」
「おお、嬉しき御言葉。若にもやっとこの身の大事さがわかってきましたか」
「さようなことは最初からわかっている。わかりきったことを、わざわざ申すな」
 晴信は怒った顔で踵(きびす)を返す。
「若、何をぷりぷりなさっておりまする」
 信方は小首を傾げながら後を追う。
 武田次郎の元服が天文(てんぶん)十年の五月に執り行われ、初陣は海野平の滋野攻めと決まった。
 しかし、晴信と信方は留守居役として新府の守りを命じられる。
 この海野平合戦は武田家の予想を遥(はる)かに上回る空前の規模となった。



 
〈プロフィール〉
海道龍一朗(かいとう・りゅういちろう)
1959年生まれ。2003年に剣聖、上泉伊勢守信綱の半生を描いた『真剣』で鮮烈なデビューを飾り、第10回中山義秀文学賞の候補となり書評家や歴史小説ファンから絶賛を浴びる。10年には『天佑、我にあり』が第1回山田風太朗賞、第13回大藪春彦賞の候補作となる。他の作品に『乱世疾走』『百年の亡国』『北條龍虎伝』『悪忍 加藤段蔵無頼伝』『早雲立志伝』『修羅 加藤段蔵無頼伝』『華、散りゆけど 真田幸村 連戦記』『我、六道を懼れず 真田昌幸 連戦記』『室町耽美抄 花鏡』がある。
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