連載
「新 戦国太平記 信玄」
第一章 初陣立志13 海道龍一朗 Ryuichiro Kaitou

「駿河守殿、これから、われらが先鋒として城内へ討ち入りまする。海ノ口城は三段の梯郭と聞いておりますが、とにかく曲輪の扉を破り、最短で主郭への道筋を開こうと思うておりまする。二の曲輪、三の曲輪の制圧は後続の隊に任せるとして、ひとつ確認しておきたいことが」
「何であるか、鬼美濃(おにみの)」
「もしも、城内で平賀玄心(げんしん)を見つけたならば、すぐに討ち取っても構わぬのであろうか?」
 虎胤が真剣な面持ちで問う。
「うぅむ……」
 信方は思案する。
「……できれば、生かして捕縛できればよいのだが」
「生け捕りせよと?」
「若が主郭へ辿り着いた時、平賀玄心を捕らえられておれば、城攻めの目的を完遂したことが一目瞭然となる。すなわち、この戦の終結をはっきりと感得することができるであろう」
「なるほど、それが御初陣の成功の証(あかし)になるということか」
「できれば、平賀は帰還の際にそのまま御屋形(おやかた)様の前へ引き立てたい。さすれば、殿軍を申し出た若の御覚悟もお認めいただけるのではなかろうか」
「そこまでお考えになっての生け捕りにござるか。であれば、そのことを肝に銘じて動きまする」
 虎胤は得心(とくしん)した表情で頷く。
「されど……」
 信方は少し顔をしかめながら口を閉ざす。
「されど、とは?」
「……生け捕りは、あくまでもわが冀求(ききゅう)にすぎぬゆえ、そなたや兵たちの無事が大切だ。この城攻めでは、なるべく味方の犠牲を少なくしたい。それゆえ、平賀を含めて敵の抵抗が激しかった場合は、そなたの判断で討ち取ってしまっても構わぬ。最悪、首級が残れば御の字だ」
「承知いたしました。あくまで最善を尽くしまする。では、持場へ戻りまするゆえ、後ほど」
 原虎胤は引き締まった顔で踵(きびす)を返した。
 それから、水の手に集まった寄手の将兵は気配を消し、城の追手門へと移動する。
 先頭の跡部信秋が松明に火を灯し、城門に向かって大きく円を描く。それが三度繰り返された。
 しばらくして、忍びの者によって城門の木戸が開けられる。続いて、高さ三間(五・四m)、幅五間(九m)はある重い追手門が鈍い音を立て、積もった雪を押した。
 人が通れるだけの隙間だけ城門が開かれ、いよいよ殿軍による城攻めという前代未聞の奇襲が始まる。



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〈プロフィール〉
海道龍一朗(かいとう・りゅういちろう)
1959年生まれ。2003年に剣聖、上泉伊勢守信綱の半生を描いた『真剣』で鮮烈なデビューを飾り、第10回中山義秀文学賞の候補となり書評家や歴史小説ファンから絶賛を浴びる。10年には『天佑、我にあり』が第1回山田風太朗賞、第13回大藪春彦賞の候補作となる。他の作品に『乱世疾走』『百年の亡国』『北條龍虎伝』『悪忍 加藤段蔵無頼伝』『早雲立志伝』『修羅 加藤段蔵無頼伝』『華、散りゆけど 真田幸村 連戦記』『我、六道を懼れず 真田昌幸 連戦記』『室町耽美抄 花鏡』がある。
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