「城攻めは、足軽の本懐。それぞれの頭が五十から八十ぐらいの精鋭を選りすぐり、若君様の隊を含めて六隊の編成を行えばよいのではありませぬか」 横田高松の献策に、多田満頼も同調した。 「それならば、山城を攻めたことのある者たちを中心に集めましょう。一気呵成(かせい)の攻めが勝負の要と考えますゆえ」 評定の場は次第に熱を帯び始める。 その中で、小畠虎盛だけは冷静だった。 「伊賀守殿、ひとつ、お訊ねしたいことがあるのだが」 「何でありましょう」 「そなたら物見の諜知について疑いを差し挟むつもりはないのだが、さきほど申された敵城の様子がまことのことだとして、城門は間違いなく開くことができるのであろうか?」 「われらの役目が物見と呼ばれているとしても、真の目的は敵の目論見を透破(すっぱ)抜き、敵城敵陣を乱破すること。すなわち、こたびの役目で城門を開けられねば、われらの目的は完遂せぬと心得ておりまする。いや、あえて、かように申しておきましょう。城門ひとつ開けられぬようであらば、われらがこの陣にいる意味がござりませぬ。従って、必ずや破ってご覧にいれまする」 跡部信秋は自信に満ちた面持ちで答えた。 「……伊賀守殿、そなたの決意は、よくわかった。されど、もしも、何かの手違いがあり、城門が開かなかった場合、城へ向かった兵は極寒の山中で立往生してしまうのではないか。そうなれば、半刻(一時間)も経たぬうちに凍えて動けなくなり、そんなところを敵兵に襲われたならば全滅も免れぬ」 小畠虎盛は晴信に向き直り、言葉を続ける。 「若君様、あえて、お断り申し上げまするが、それがしは決して城攻めに臆しているわけではありませぬ。かように悪条件が重なる中、少数の精鋭で戦う場合においては、あらゆる最悪の事態を想定した上で、策の断行に臨まねばならぬと思うておりまする。お聞き苦しい点がありましたとしても、どうか、お許しくださりませ」 「そのように様々な意見を聞くため、皆に集まってもらったつもりだ。小畠、構わずに続けてくれ」 晴信は話の続きを促す。 「有り難き仕合わせ。では、続けて伊賀守殿にお訊ねいたす。そなたは開門の機と手筈(てはず)をどのように考えておられるのか?」 「われらは隠し路の登攀によって城への寄手が揃うのに一刻(二時間)ほどを要すると考えておりまする。充分な兵数が揃わぬ前に門を開いてしまうのでは勇足(いさみあし)となりかねませぬので、若君様の隊には最後尾の前にお控えいただき、その一隊が到着いたしましたならば、すぐに城への合図を行うのがよいかと。手筈は簡単で、それがしが城門の近くへ行き、忍び込ませた手の者へ松明(たいまつ)を三度廻(まわ)して見せまする。さすれば、木戸と城門が同時に開かれる手筈となっておりまする」 「この雪で、松明の灯りが見えるであろうか」 「見える場所をあらかじめ探してあり、さしたる問題はないかと。城へは特に夜目の利く者を放ってありますゆえ、見逃したりはいたしませぬ」