連載
「新 戦国太平記 信玄」
第一章 初陣立志13 海道龍一朗 Ryuichiro Kaitou

「城攻めは、足軽の本懐。それぞれの頭が五十から八十ぐらいの精鋭を選りすぐり、若君様の隊を含めて六隊の編成を行えばよいのではありませぬか」
 横田高松の献策に、多田満頼も同調した。
「それならば、山城を攻めたことのある者たちを中心に集めましょう。一気呵成(かせい)の攻めが勝負の要と考えますゆえ」
 評定の場は次第に熱を帯び始める。
 その中で、小畠虎盛だけは冷静だった。
「伊賀守殿、ひとつ、お訊ねしたいことがあるのだが」
「何でありましょう」
「そなたら物見の諜知について疑いを差し挟むつもりはないのだが、さきほど申された敵城の様子がまことのことだとして、城門は間違いなく開くことができるのであろうか?」
「われらの役目が物見と呼ばれているとしても、真の目的は敵の目論見を透破(すっぱ)抜き、敵城敵陣を乱破すること。すなわち、こたびの役目で城門を開けられねば、われらの目的は完遂せぬと心得ておりまする。いや、あえて、かように申しておきましょう。城門ひとつ開けられぬようであらば、われらがこの陣にいる意味がござりませぬ。従って、必ずや破ってご覧にいれまする」
 跡部信秋は自信に満ちた面持ちで答えた。
「……伊賀守殿、そなたの決意は、よくわかった。されど、もしも、何かの手違いがあり、城門が開かなかった場合、城へ向かった兵は極寒の山中で立往生してしまうのではないか。そうなれば、半刻(一時間)も経たぬうちに凍えて動けなくなり、そんなところを敵兵に襲われたならば全滅も免れぬ」
 小畠虎盛は晴信に向き直り、言葉を続ける。
「若君様、あえて、お断り申し上げまするが、それがしは決して城攻めに臆しているわけではありませぬ。かように悪条件が重なる中、少数の精鋭で戦う場合においては、あらゆる最悪の事態を想定した上で、策の断行に臨まねばならぬと思うておりまする。お聞き苦しい点がありましたとしても、どうか、お許しくださりませ」
「そのように様々な意見を聞くため、皆に集まってもらったつもりだ。小畠、構わずに続けてくれ」
 晴信は話の続きを促す。
「有り難き仕合わせ。では、続けて伊賀守殿にお訊ねいたす。そなたは開門の機と手筈(てはず)をどのように考えておられるのか?」
「われらは隠し路の登攀によって城への寄手が揃うのに一刻(二時間)ほどを要すると考えておりまする。充分な兵数が揃わぬ前に門を開いてしまうのでは勇足(いさみあし)となりかねませぬので、若君様の隊には最後尾の前にお控えいただき、その一隊が到着いたしましたならば、すぐに城への合図を行うのがよいかと。手筈は簡単で、それがしが城門の近くへ行き、忍び込ませた手の者へ松明(たいまつ)を三度廻(まわ)して見せまする。さすれば、木戸と城門が同時に開かれる手筈となっておりまする」
「この雪で、松明の灯りが見えるであろうか」
「見える場所をあらかじめ探してあり、さしたる問題はないかと。城へは特に夜目の利く者を放ってありますゆえ、見逃したりはいたしませぬ」

 



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〈プロフィール〉
海道龍一朗(かいとう・りゅういちろう)
1959年生まれ。2003年に剣聖、上泉伊勢守信綱の半生を描いた『真剣』で鮮烈なデビューを飾り、第10回中山義秀文学賞の候補となり書評家や歴史小説ファンから絶賛を浴びる。10年には『天佑、我にあり』が第1回山田風太朗賞、第13回大藪春彦賞の候補作となる。他の作品に『乱世疾走』『百年の亡国』『北條龍虎伝』『悪忍 加藤段蔵無頼伝』『早雲立志伝』『修羅 加藤段蔵無頼伝』『華、散りゆけど 真田幸村 連戦記』『我、六道を懼れず 真田昌幸 連戦記』『室町耽美抄 花鏡』がある。
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