連載
「新 戦国太平記 信玄」
第二章 敢為果断(かんいかだん)13 海道龍一朗 Ryuichiro Kaitou

 国分寺表を出てから、幸隆は念のために虚空蔵山(こくぞうさん)の伊勢崎砦(いせざきとりで)に海野棟綱を入れ、そこから使番を走らせて城代の禰津元直(もとなお)と城将の矢沢頼綱(よりつな)に詳細を伝えることにした。
 ところが、しばらくして顔色を失った使番が戻ってくる。
「……申し訳ござりませぬ。……砥石城へ入れませんでした」
「はぁ?」
 幸隆が眉をひそめる。
「どういうことだ、それは」
「……城門が固く閉ざされておりまして……しかも、その……追手門に奇妙な旗幟が……丸に上の一字……その紋が見えまして……」
 使番がしどろもどろで答える。
「丸に上の一字!?……村上の紋だと申すか。まさか、見間違いではないのか?」
「いいえ、確かに、その旗幟が……」
「砥石城が村上に落とされたと申すか?」
「……落とされたという気配ではなく、戦いがあったような痕も見当たりませなんだ」
「ならば、禰津殿が城ごと村上に寝返ったと言いたいのか?」
 怒りを含んだ声で、幸隆が問い詰める。
「……いいえ、滅相もござりませぬ。……されど、奇妙な気配で城門が閉ざされていることは確かで」
「もう一度、確かめてまいれ!」
「はっ! 申し訳ござりませぬ」
 使番は尻を蹴り上げられたように駆け出す。
 ――この短い間に、村上義清が砥石城へ攻めかけたとは思えぬ。それに、さほど簡単に落ちる城ではない……。
 幸隆は嫌な予感を抱きながら、半月ほど前の評定のことを思い出した。



 
〈プロフィール〉
海道龍一朗(かいとう・りゅういちろう)
1959年生まれ。2003年に剣聖、上泉伊勢守信綱の半生を描いた『真剣』で鮮烈なデビューを飾り、第10回中山義秀文学賞の候補となり書評家や歴史小説ファンから絶賛を浴びる。10年には『天佑、我にあり』が第1回山田風太朗賞、第13回大藪春彦賞の候補作となる。他の作品に『乱世疾走』『百年の亡国』『北條龍虎伝』『悪忍 加藤段蔵無頼伝』『早雲立志伝』『修羅 加藤段蔵無頼伝』『華、散りゆけど 真田幸村 連戦記』『我、六道を懼れず 真田昌幸 連戦記』『室町耽美抄 花鏡』がある。
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