まだあどけなさの残る頬とふくよかな深紅の口唇が対照的で、かえってそれが不思議な色気を醸し出していた。 ――眉目に凜然(りんぜん)とした意志が見て取れる。何よりも、かように優雅な気配の女人を、この甲斐では見たことがない……。 だが、いつまでも隣を凝視するのは憚(はばか)られる。 晴信は背を伸ばして正面を見つめ、慶子の気配だけを感じていた。 二人が上座についたことを確かめてから、神人(しんじん)が祓詞(はらえことば)を述べた後、祝詞(のりと)を唱えて神々に二人の縁結びを申し上げた。 続いて、永遠の契りを結ぶ「式三献(しきさんこん)の儀」と呼ばれる酒式が執(と)り行われる。いわゆる三三九度の盃であり、婿と嫁が交互に御神酒(おみき)をいただき、魔除けを行い、家の繁栄を願う。 そして、二人は白無垢(しろむく)の衣裳に着替え、初献の膳と雑煮を食す。こうした儀は夫婦だけで行われ、父母はもちろんのこと兄弟や親族も立ち会わない。 こうして初日の儀式は無事に終わり、晴信は最初の婚礼での経験があったため余裕を持ちながら、すべてを粗相なくこなした。 しかし、花嫁は駿府(すんぷ)から旅してきたこともあってか、疲れの色が顔に滲(にじ)み出ている。 それを見た晴信が躊躇(とまど)いがちに言葉をかける。 「……長い旅路もあり、お疲れではござらぬか?」 「お気遣い……身に余る仕合わせ。……されど、大丈夫にござりまする」 転法輪三条慶子は笑顔を作って答える。 「さようにござるか。……では、ごゆるりとお休みくだされ」 「……はい。有り難うござりまする」 初日の会話はそれだけだった。 まだ儀式の日程を残しているため、この日は同衾(どうきん)することはなく、それぞれの室に分かれた。 待っていた傅役(もりやく)の信方(のぶかた)に婚礼の様子を伝えてから、 晴信が困ったような顔で訊く。 「慶子殿とうまく話すことができなかった。もう少し何か労(ねぎら)いの言葉をかけた方がよかったのだろうか?」 「お会いするのが初めてゆえ、致し方がなかったのではありませぬか。これから、じっくりと時をかけて慣れ親しんでいけばよいと存じまする」 「……そうだな」 「本日は若も早くお休みなされませ。明日は最も大事な儀も控えておりますゆえ」 信方が言ったように、二日目になると二人は色直しで縁起の良い赤や青などの衣裳を着て、初めて舅(しゅうと)や姑(しゅうとめ)と対面する。