連載
「新 戦国太平記 信玄」
第二章 敢為果断(かんいかだん)20 海道龍一朗 Ryuichiro Kaitou

「板垣、何をせねばならぬかは、よくわかった。されど、己が覚悟を揺るぎなきものにするため、ほんの少し時をくれぬか」
「もちろんにござりまする」
「では、信繁と話をしてくる」
 今度は晴信の言葉に、信方が驚く。
「まことにござりまするか!?……ご一緒いたしましょうか」
「いや、一人で大丈夫だ。信繁とは、もう蟠(わだかま)りなどない」
「さようにござりまするか」
「一刻(二時間)したら戻ってくる」
 そう言い残し、晴信は室を出ていった。
 信方はそのまま正座し、じっと帰りを待った。
 ちょうど一刻が経った頃、晴信が戻ってくる。
「板垣、待たせてすまなかったな」
 その顔は憑(つ)きものが落ちたように晴れ晴れとしていた。
「甲斐一国の立て直しと武田一統の行末のために立つことにした。よろしく頼む」
「承知いたしました」
「さっそく、皆を集めてくれぬか」
 晴信は精悍(せいかん)な顔つきで言う。
 覚悟を決めた漢(おとこ)の面相だった。
「御意!」 
 信方は両手をついて応えた。
 こうして二人を中心に武田家の中で第三の勢力が動き始めた。



 
〈プロフィール〉
海道龍一朗(かいとう・りゅういちろう)
1959年生まれ。2003年に剣聖、上泉伊勢守信綱の半生を描いた『真剣』で鮮烈なデビューを飾り、第10回中山義秀文学賞の候補となり書評家や歴史小説ファンから絶賛を浴びる。10年には『天佑、我にあり』が第1回山田風太朗賞、第13回大藪春彦賞の候補作となる。他の作品に『乱世疾走』『百年の亡国』『北條龍虎伝』『悪忍 加藤段蔵無頼伝』『早雲立志伝』『修羅 加藤段蔵無頼伝』『華、散りゆけど 真田幸村 連戦記』『我、六道を懼れず 真田昌幸 連戦記』『室町耽美抄 花鏡』がある。
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