「こたびの咎(とが)に関しては、新府へ戻ってから沙汰いたすゆえ、それまで謹慎しておれ」 こたびの咎。 その言葉を聞き、晴信は身を固くした。 ――咎……手柄ではなく、こたびの咎。……つまり、罰を下されるということか。しかも、この身だけに留まらぬやもしれぬ……。 殿軍(しんがり)に参じてくれた家臣たちの顔が脳裡に浮かぶ。 その途端、晴信の両肩にこれまで感じたことのない重圧がのしかかる。まるで信じ難い大きさの岩石をいきなり背負わされたような気分だった。 息が詰まり、胃の腑(ふ)から微かな吐気がこみ上げ、床に両手をつきそうになる。まさに一軍の将としての重責を、現実のものとして感じた瞬間だった。 晴信は太腿の上で両の拳を握り締め、必死で耐える。 ――あの者たちに責任を負わせるわけにはいかぬ。何とか、せねば……。 そう思いながら、すがるように父の顔を仰ぐ。 「勝千代、申し開きがあるならば、今ここで聞いておく。あるはずも、なかろうがな」 信虎は欠伸(あくび)を嚙み殺しながら、息子を見下ろす。 「……おそ……れながら」 喉が締まり、声が掠れる。 晴信は空咳をして喉を整えてから言葉を続ける。 「懼(おそ)れながら、ひとつだけ……お願い申し上げとうござりまする」 「何だ、急に……」 不機嫌そうな信虎が荻原(おぎわら)虎重(とらしげ)に新たな盃を要求しながら言う。 「まあ、よい。申してみよ」 父の許しに、意を決して顔を挙げ、晴信は声を振り絞る。 「こたびの城攻めは……それがしが将として決断しましたことゆえ、すべてはこの身に責がありまする。どうか殿軍に残ってくれました家臣たちをお咎めになることだけは、お許しくださりませぬか」 「ほう、あくまでも虚勢を張るか。己一人で責を負いたいと申すのだな、勝千代?」 「はっ。さようにござりまする。申し訳ござりませぬ」 晴信は両手をつき、床に額を擦りつける。 その姿を見ながら、信方は城攻めの直前の会話を思い出す。 『敵城の奇襲が必要だと申すならば、この身もそなたと一緒に攻め入る。そうでなければ、卑怯者になってしまう。もしも、それがだめだと申すならば、殿軍の大将として城攻めの策を認めることはできぬ』 晴信はきっぱりと言った。 ――あの時の気概を、若は最後まで全うなされようとしているのか。されど、御屋形様をお相手に、それはあまりに無謀すぎる。特に、泥酔なされた御屋形様では……。 信方は動揺しながら、大上座の主君を見つめる。