「勝千代、咎というのは、罪科(ざいか)が伴うものぞ。そのことを解した上で申しているのであろうな?」 信虎は非情な声色で言い放つ。 「……はい、わかっているつもりにござりまする」 「まさか、父が子に罪科を処すはずがない、などという生温(なまぬる)い期待は抱いておるまいな?」 「……はい」 観念した面持ちで、晴信は頷(うなず)いた。 「よかろう。己の言葉を肝に銘じておけ、勝千代。後で悔いても、吐いてしまった唾は呑めぬぞ」 「……承知……いたしました」 打ち拉(ひし)がれた晴信のために、信方が声を上げようとした、まさにその刹那だった。 「お待ちくださりませ、御屋形様」 執り成しに入ったのは、原昌俊(まさとし)である。 「何であるか、加賀守(かがのかみ)?」 信虎は怪訝(けげん)そうな面持ちで訊く。 「陣馬(じんば)奉行をお預かりする身として、お訊ねしとうござりまする。若君様がお落としになりました海ノ口城はいかがなさりまするか」 「海ノ口城?」 信虎は酔眼を細めて思案顔になる。 「……あのような小城に将兵を張り付けて守るのは、損でしかなかろう。捨て置け」 「すぐに兵を引くだけでよろしいと?」 原昌俊が確認する。 「その通りだ」 「何もせず、にござりまするか?」 「さようだ。人を置く価値もなかろう。違うか、加賀守」 「確かに、将兵を置いて維持するだけの価値はないやもしれませぬ。されど、残念にござりまする」 「何が、だ?」 「ただ兵を引くのは、少々もったいのうござりまする」 「だから、なにゆえだと訊いておる?」 少し苛(いら)ついた表情で、信虎が昌俊を睨む。 「平賀玄心は籠城に備え、それなりの兵糧や薪(たきぎ)の類を海ノ口城に運び入れていたようにござりまする。何もせずに兵を引くだけではなく、せめてそのぐらいは運び出しとうござりました」 「はぁ?」 信虎の両眼に怒りが宿る。 「何を当たり前のことを申している。戦(いくさ)に勝ったならば、相手の財を分捕ってくるのは当然のことではないか!」