その顔を、昌俊はじっと見つめる。覚悟を決めた同輩の表情を確かめてから、何度か小さく頷いた。 「……そこまで申すならば、これ以上は何も言うまい」 「そなたは、どう思うているのだ、昌俊?」 「何をだ」 「若のことや……」 信方は意を決して相手の本心を問う。 「……廃嫡を騒ぎ立ててきた者たちのことについてだ。そなたの真意をどうしても聞いておきたい」 「それがしの本音を明かせというならば、晴信様の器量については文句のつけようがないと思うておる。心胆も太く、骨も硬い。御初陣を経て、それは確信となった。されど……」 昌俊は微かに眉をひそめながら言う。 「少し内向きな御気性のせいか、あるいは御屋形様に萎縮なされてしまうのか、それが周囲に伝わっておらぬ。他人には滅多に御本心を明かすこともなく、己が裡(うち)に秘めてしまうように見受けられ、幼少の頃からさような癖がついておられるのではあるまいか。人の上に立つ者にとって内省というのは常に必要な行為だとは思うが、晴信様の場合はもっと御自分を解き放ってもよいと思うのだ。それがないため、表面(おもてづら)のおとなしさだけを鵜呑(うの)みにして侮る者が出てくるのではないか」 同輩の冷静な観察に、信方が驚く。 ――こ奴、それがし以上に、よく若のことが見えているやもしれぬ!? 「信方、そなたは廃嫡を騒ぎ立ててきた者たちと申したが、果たして本気でさようなことを考えている家臣がいるのだろうか」 「……いないとは、断言できまい」 「この身には、御屋形様の不興を利用し、己の保身を謀(はか)ったり、阿(おもね)りを繰り返したりする者がいるだけのように見えるのだがな。もしも、御屋形様が言を翻せば、さような者たちは追従するだけであろう。問題は親子の間にある感情の行き違いにあり、それだけは何人(なんぴと)たりとも立ち入れぬものだ。われらには如何(いかん)ともし難い」 「では訊くが、そなたはなにゆえ御屋形様が若を未だに幼名で呼ばれたり、冷たく突き放されたりするのだと思うか?」 「……それをこの身に問うのか」 「ああ、この際はっきりと、そなたの考えを聞いておきたい」 「まったく、御主の猪突(ちょとつ)には、毎回、呆れるよ……」 昌俊は困ったように笑ってから、真剣な口調で答える。