「されど、どうやら身勝手な城攻めであったことは、わかっておるらしいの。余がそなたに預けたのは殿軍の役目だけだ。殿軍ならば、敵が動いてきた時に相手を捌(さば)けばよい。従って、総大将や本隊に量らず、勝手に策を弄することなど許されぬ。なにゆえならば、殿軍が勝手に動いて崩れれば、撤退する本隊をも危うくしてしまうからだ。それをわかっていながら、勝千代、なにゆえ許しも得ておらぬ城攻めを強行した?」 信虎の詰問に、晴信は口唇を固く結ぶ。 父の言うことが正論であり、それは己でもわかっていたからだ。 「どうした。先ほどのように、達者な口は利けぬのか? なにゆえ、余の許しを得ずに動いた。功を焦ったか? それとも、己の力を過信したか? 長男の初陣だからという増上慢(ぞうじょうまん)か? 答えてみよ」 信虎は容赦なくたたみかける。 その酔眼に妖しい光が宿り、目尻に独特の険が現れていた。 見かねた信方が執(と)り成しに入る。 「御屋形様、敵の隙を突くためには一刻の猶予もなく……」 その声を遮り、信虎の怒声が飛ぶ。 「うぬは黙っておれ、信方! 余は勝千代に訊ねておるのだ!」 「……申し訳ござりませぬ」 項垂(うなだ)れながら、信方が謝る。 「勝千代、答えられぬのは、うぬがこの策を案じておらぬからだ。己一人で、かほど大それたことを考えつくわけがあるまい。誰の入れ知恵か。そこにおる信方か。誰よりも武功を欲しがっていた信秋か。誰にそそのかされた。申してみよ!」 難詰を続けながら、信虎の盃が恐るべき疾(はや)さで空いていく。 歯を食い縛っていた晴信が、思い詰めた表情で口を開く。 「……誰にも、そそのかされてはおりませぬ。確かに、皆からの進言も受けましたが、城攻めの策を決めたは、殿軍をお預かりしました大将の……それがしにござりまする」 「ほう、あくまでも見栄を張るつもりか。ならば、再び問うぞ。なにゆえ、無断で城攻めに踏みきった? 総大将の余が得心(とくしん)のいく説明ができねば、陣中における身勝手は反逆にも等しい大罪ぞ。心して答えよ」 「……確かに、御屋形様が仰せの通り、初陣を迎えた者として功を焦る気持ちがなかったと言えば、嘘になりまする。されど、敵に付け入る隙があるという諜知(ちょうち)の報告を受けました時、もしも城を落とせたならば、長きにわたる滞陣も報われるのではないかと思いました。ただ敵を奇襲するためには一刻の猶予もなく、早馬とはいえ南牧と若神子の往復にかかる時を惜しむべきと考えました。われらの撤退を信じ切っている敵の隙を突くべきと……」 「やっと達者な口が戻ってきたようだな。されど、自惚(うぬぼ)れも大概にせよ!」 信虎は手にしていた盃を広間の床に叩きつける。 一同は息を詰め、身を強ばらせた。 晴信は軆を硬直させながらも俯かず、真っ直ぐに信虎の顔を見つめていた。