「信方、そなたと話をしておきたいことがある。今から、よいか?」 原(はら)昌俊(まさとし)が真剣な口調で切り出す。 その後ろには跡部(あとべ)信秋(のぶあき)が立っていた。 「ああ、わかった。入ってくれ」 信方は火急の件と察し、二人を招き入れる。 室に入った途端、原昌俊が切り出す。 「実は、諏訪(すわ)家に奇妙な動きがある」 「諏訪家に!?」 「さようだ。それについては、話を摑んできた跡部から聞いてもらおう」 原昌俊は詳細な説明を跡部信秋に任せた。 「われらの諜知によりますれば、海野平(うんのだいら)の合戦の後、長窪(ながくぼ)城まで出張っていた諏訪頼重(よりしげ)が滋野(しげの)の残党である望月(もちづき)家、芦田(あしだ)家の一派を勝手に取り込み、佐久(さく)郡に足場を築いておりまする。どうやら、村上(むらかみ)義清(よしきよ)はそれを事前から承認していた節があり、われらが村上と盟を結ぶ前から諏訪家は裏で誼を通じ、当家との二股をかけていたようにござりまする」 「おのれ、諏訪頼重……」 「それだけでなく、海野棟綱(むねつな)の嘆願で佐久へ出張ろうとしていた関東管領の山内上杉家と村上、諏訪が勝手に和睦の話を進めているのではないかと」 「まことか!?」 信方の両眉が吊り上がる。 「信方、正直、この身も話を聞いて、にわかには信じがたかった。されど、どうやら、まことのようだ。となれば、こたびの戦で村上と諏訪は最初から当家に分け前を渡すつもりなどなかったということになる。村上義清に、たばかられたな」 珍しく怒りを露わにし、原昌俊が吐き捨てる。