十八 今川家の使者が長禅寺を訪れた翌日、三人の漢(おとこ)が躑躅ヶ崎館に向かっていた。 先頭を歩くのは原(はら)昌俊(まさとし)であり、その後を青木(あおき)信種(のぶたね)と駒井(こまい)信為(のぶため)が付いていく。 「加賀守(かがのかみ)殿、そなたから面談の申し出があるとは少々驚きましたが、われらも話をしたいと思うておりましたゆえ、まさに渡りに船でござる」 駒井信為が原昌俊に話しかける。 「それはようござった。何やら新府に不穏な風聞も流れておりましたので、是非に御二方とお話をしておかねばと考えた次第で」 「ならば、青木殿の屋敷でもよかったのだが」 「いえいえ、他にも是非お話を伺いたいという者たちがおりましたゆえ、当方で取りまとめておきました。その方が青木殿も都合がよろしかろうと」 原昌俊の言葉を聞き、青木信種に笑みが浮かぶ。 「加賀守殿がわざわざ取りまとめを。それは有り難し」 完全に陣馬(じんば)奉行が己の陣営に擦り寄ってきたと信じこんでいた。 「それなりの人数となっておりますので大広間の方へ」 昌俊はいつもの評定が行われる場所へと二人を導く。 そこへ入った途端、青木信種と駒井信為が立ち竦む。 「えっ!?」 青木信種が大広間に居並ぶ面々を見回す。 「こ、これは、いかなる……」 まるで御前評定でもあるかように、主だった家臣たちが座している。武川(むかわ)衆の土屋一派以外の面々だった。 そして、大上座には、晴信とそれを補佐する板垣信方の姿があった。 「……な、なんの真似であるか、これは。……加賀守殿、それがしをたばかったのか?」 青木信種は当惑しながら原昌俊を見る。 「たばかる?……これは異なことを申される。新府に謀叛(むほん)も同然の動きがあると聞き、話の真偽を確かめたいという家臣が集まっているだけにござる。それがしも陣馬奉行として見過ごせぬと思いましたゆえ、なるべく穏便に話を伺いたいと手配りしたまで」 「さ、されど、なにゆえ、晴信様が大上座におられる。さように勝手なことを、御屋形様がお許しになるとでも……」 「重ねて何を申されるか、青木殿。御屋形様がお留守である今、後事を預かるのはご長男であらせられる晴信様。つまり、これは当然のお務め。われら留守居番の家臣がそれを補佐せねばならぬのは、これまた至極当然のこと。しかも、話が謀叛も同然の動きに及ぶとならば、御裁可できるのは御屋形様を除き、晴信様しかおりますまい」 原昌俊はこともなげに言う。 「……む、謀叛も同然とは、聞き捨てなりませぬ。わ、われらは武川衆の内々のことについて、御屋形様に嘆願申し上げようと考えていただけ。さ、さような沾衣(ぬれぎぬ)を着せられるのは心外にござる」 明らかに青木信種は動揺していた。 少し後ろに控えていた駒井信為は、俯(うつむ)きながらも様子を窺(うかが)っている。 晴信は背筋を伸ばし、二人の様子を真っ直ぐに見つめていた。