第五章 宿敵邂逅(しゅくてきかいこう)10
海道龍一朗Ryuichiro Kaitou
「同じくこたび、畿内における長尾弾正少弼(だんじょうしょうひつ)殿の接遇を仰せつかりました大舘(おおだち)晴光(はるみつ)と申しまする。ご要望がありますれば、何なりとお申し付けくださりませ」
大舘晴光は柔和な笑顔で頭を下げた。
それを受け、直江景綱が隣にいた折衝役を紹介する。
「この者は神余と申し、前回の上洛にも同行いたしました。主君の使番(つかいばん)をいたしますので、よろしくお願いいたしまする」
「神余隼人佑(はやとのすけ)、親綱と申しまする。よろしくお願い申し上げまする」
顔合わせの挨拶を済ませ、一行は御座所へ向かう。
長尾景虎は泰然と大上座についていた。
その前に進み、細川藤孝が公方からの長い口上を読み上げる。
それから、入洛後の予定について説明し始めた。
「……それがしが先導役を務めますので、明朝こちらを出立していただき、そのまま粟田口(あわたぐち)から洛内へ進んでいただいたのち、まずは宿所として用意いたしました二条(にじょう)の神泉苑(しんせんえん)へお入りくださりませ。荷など解いた後、一息つかれましたら、二条法華堂(ほっけどう)の御座所へご案内いたしますので、御面会をお願いいたしまする。上様もお待ちかねになっておられますゆえ、どうか、よろしくお願いいたしまする」
細川藤孝が大紋直垂(だいもんひたたれ)の袖を捌(さば)いて一礼した。
「委細、承りました」
長尾景虎は鷹揚(おうよう)な仕草で両拳をつき、武者礼を返す。
「御面会後のことについても、少し申し上げとうござりますが」
「お願いいたしまする」
「御面会が終わりましたならば、別室へ移っていただき、続いて朝廷の武家伝奏役、広橋(ひろはし)国光(くにみつ)殿への引き継ぎをさせていただきまする。そこで御今上への拝謁について、詳細なご説明があるかと存じまする。憚(はばか)りながら、それがしが聞き及んでいることを申し上げますれば、予定としては皐月朔日(さつきのついたち/五月一日)、土御門(つちみかど)東洞院(ひがしのとういん)の里内裏(さとだいり)にて、御今上へのお目通りになるのではないかと。それまでは都の見物などなされ、ごゆるりとお過ごしいただくのがよいかと存じまする」
幕府の奏者があえて御主上への拝謁について話を添える。
- プロフィール
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海道龍一朗(かいとう・りゅういちろう) 1959年生まれ。2003年に剣聖、上泉伊勢守信綱の半生を描いた『真剣』で鮮烈なデビューを飾り、第10回中山義秀文学賞の候補となり書評家や歴史小説ファンから絶賛を浴びる。10年には『天佑、我にあり』が第1回山田風太朗賞、第13回大藪春彦賞の候補作となる。他の作品に『乱世疾走』『百年の亡国』『北條龍虎伝』『悪忍 加藤段蔵無頼伝』『早雲立志伝』『修羅 加藤段蔵無頼伝』『華、散りゆけど 真田幸村 連戦記』『我、六道を懼れず 真田昌幸 連戦記』『室町耽美抄 花鏡』がある。
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