一人になっても、頭が混乱し、考えがまとまらない。 ――やはり、太郎様に確認だけはしておくべきか?……いや、訊けぬ。さようなことは、断じて訊けぬ。 虚しい自問自答が続く。 ――それとも、父親が誰なのか、調べてみるべきか?……いや、無用な藪を突いて蛇が飛び出してくるやもしれぬ。今はへたに動かぬ方がよいか。……さりとて、知らぬ振りもできまい。この身が何かをしなければならぬのに、何が最善なのか、まったくわからぬ。 そんな悩みを抱えながら、太郎の側に戻っても、自然と口数が少なくなるだけだった。 信方の気配を察してか、太郎も黙り込むことが多くなった。あるいは、風聞のことを気に病んでいるのかもしれない。 太郎も気鬱に沈み、弓箭の稽古や修学にまったく身が入っていなかった。 その様子を見て、信方は覚悟を決める。 ――やはり、はっきりさせねばなるまい。真っ直ぐに、ぶつかってみるしかない。 「若、実は……」 その言葉を遮り、太郎が今にも哭(な)き出しそうな面持ちで呟く。 「板垣、何も訊かないでくれ」 「されど……」 「この身に答えようがないことは、そなたが一番よく知っているではないか」 確かに、太郎の言う通りだった。 信方が何を問いたいのかもわかっているようだ。 「今は何も信じられぬし、何も話したくない。しばらく、放っておいてくれ」 太郎はそう呟いたきり、黙り込んでしまう。 信方も黙って側を離れるしかなかった。 そうしている間にも、甲斐の国内は荒れに荒れていた。疫病は終熄(しゅうそく)の気配を見せていたが、相変わらず飢饉が続いている。年末に向けて食べる物もなく、新年の祝いなど支度のしようもなかった。 そして、ちょうど暦が霜月(十一月)に変わった直後のことである。太郎と信方にとっても、最悪の結末が訪れた。 朝霧姫が難産に耐えきれず、亡くなってしまったのである。もちろん、出産の月日に足りていなかった子も一緒に亡くなった。 姫の死を知らされた太郎は、茫然と立ち竦むしかなかった。しかも、難産で死んだことは伏せられ、疫病で亡くなったとしか伝えられていない。 しかし、太郎は出産に耐えきれずに朝霧姫が亡くなったと見当がついているようだった。それもあってか、落ち込みようが尋常ではなく、しばらく食事にも手を付けられなかった。 茫然自失は信方も同じであり、痛々しいほど打ち拉(ひし)がれている太郎にかける慰めの言葉さえ見つけられない。藤乃とともに「何かできることはなかったか」と後悔の念にかられ、ただ苦悶するしかなかった。 死因が疫病ということになっていたので、朝霧姫の遺体はすぐに躑躅ヶ崎の南西にある八人山の奥深くに埋葬される。慎ましい葬儀が行われ、初七日が済むと、侍女の立花は早々に武蔵へ帰ることになった。